こんにちは!クラウドパワーパートナーズ海外編集部です。今回は上記の疑問にお答えする記事を公開しました。
インドのSNS事情について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を最も使いこなしている世界のリーダーは、おそらくアメリカのドナルド・トランプ大統領でしょう。しかし、その先駆者となったのは、まぎれもなくインドのナレンドラ・モディ首相です。トランプ氏よりも早く「Twitter」(ツイッター)を使い、「Facebook」のフォロワー数はトランプ氏のそれを大きく上回り、日々の政治活動や新たな政策発表はSNSを通じて国民に届けられています。その「先見の明」は、さすがIT大国のインドを率いる政治家ならではといえます。一方で、新聞やテレビなど伝統的なメディアに対する頭越しの姿勢は、政治とメディアの関係に新たな課題を提示しています。
モディ首相が就任して5年。この間に大きく変化したインドのメディア事情を紹介いたします。
膨張するSNS市場
インドにおけるインターネットメディアの急伸ぶりはめざましいものとなっています。
インド通信規制委員会(Telecom Regulatory Authority of India、TRAI)のデータによると、2018年9月時点でインド国内のインターネット回線数は5億6000万で、2016年3月の3億4000万から65%増加しました。
これに伴って携帯電話やスマートフォンが普及し、メッセージングアプリの利用者は2000万人を超えています。
Facebookが提供するWhatsAppが2014年2月にサービスが開始され、TRAIによると、Twitterのアカウントは3000万、Facebookは2億9400万に達しています。
世界最大のインターネット機器開発企業シスコシステムズの推計では、インドのスマートフォンユーザーは2022年まで現在の2倍の8億2900万人になるとみられています。
広大な面積があり、都市部と農村部の格差が激しいインドでのインターネット普及率は、実は高くありません。
インターネットデータブック「DIGITAL 2019」によると、ネット普及率は41%で世界平均の57%を下回ります。
ただし、1日の平均利用時間は世界平均の6時間42分を上回る7時間47分で、12位です。
スマートフォン所有者にとって、それだけインターネットへの依存率が高いことになります。
モディ首相の先見性
これを後押ししたのが、モディ首相が政権発足から間もない2014年8月に発表した「デジタル・インディア」計画です。
デジタルインフラの整備に加え、行政手続きを効率化し、法人税免除や特許登録税減税など「スタートアップ・インディア」プロジェクトも推進しました。
遠隔医療、ドローン農業、オンライン講座、決済アプリなどの分野でスタートアップ企業が次々と誕生し、経済のエンジン役になっています。
この潮流をモディ首相は10年前から先取りしていました。Twitterのアカウントを作成したのはグジャラート州首相時代の2009年1月。インドの政治家がTwitterを知らなかった時代です。
世界の政治家では、オバマ米大統領が2007年3月にTwitterを使いはじめたのが群を抜きますが、当時ビジネスマンだったトランプ氏はモディ氏の2カ月後です。
地方政治家ながらSNSに着眼したモディ首相の目利きはその後、開花します。
Twitter利用の先駆者はモディ首相
モディ氏は2014年5月の総選挙ではSNSをフル活用しました。Twitterを使用した世論調査や選挙公約(マニフェスト)のクラウドソーシングを実施したほか、庶民性をアピールするための「お茶を飲んで語り合う(Chai Pe Charcha)」集会の呼びかけなどにSNSを活用しました。勝利後につぶやいた「インドが勝利した(“India has won!”)」はその年のインドでの「ゴールデン・ツイート」に選出されました。
首相就任から2年後の2016年8月には、インド映画界ボリウッドの大スターとして知られ、絶大な人気を誇るアミターブ・バッチャン氏をTwitterのフォロワー数で追い抜き、インド最多のフォロワー数を記録。2019年5月の総選挙でもパキスタンのテロ攻撃に反撃した強硬姿勢を売りに「チョウキダー(Chowkidar)」(インドで最も優れた守護者)をTwitterのアカウントに命名し、世論の支持を得て勝利し、再選を果たしました。
SNS上での「モディ人気」はその後も広がり、2019年9月にはインドで初のフォロワー数5000万人を突破しました(11月17日時点で約5131万人)。これは世界のリーダーでは、オバマ前米大統領(同約1億1000万人)、トランプ米大統領(同約6683万人)に次いで3番目の多さです。今年の総選挙で敵対した野党第1党の国民会議派総裁だったラフル・ガンディー氏(同約1120人)の5倍近くのフォロワーを抱えています。
インドでは、「Facebookファミリー」と呼ばれるFacebook、WhatsApp、Instagramの人気が高いですが、とりわけFacebookのアカウント比較では、モディ首相の4400万人に対し、トランプ氏は2600万人、ラフル・ガンディー氏は312万人と、圧倒的な差があります。自らIT企業を創設したラフル・ガンディー氏を大きく引き離すSNSの使い手は、インドにおける政治とメディアの関係も様変わりさせました。
政治とメディアの変化
一つは既存メディアとの対立で、もう一つが「フェイクニュース」の乱流とSNSへの規制です。こうした新たな課題は、トランプ大統領の米国をはじめ世界各地でみられることです。インドでもご多分に漏れず、この傾向が強まっています。
独立系オンラインジャーナル「The India Forum」は今年6月7日、モディ政権誕生後のメディア環境の変化を考察した記事で、「インド人民党政権のこの5年間で主流メディアは不当に扱われています。その結果、トップが代わり、自己検閲するようになりました。
一方、ソーシャルメディアの利用が急速に増大し、WhatsAppなどが選挙での強力な武器になった」と指摘しました。「The India Forum」を含むインドメディアによると、モディ首相は政府高官や内閣の閣僚らにジャーナリストとの接触を禁じたようです。モディ首相自身も再選選挙の直前までほぼ5年間、1回も記者会見を開きませんでした。
代わってモディ政権はSNSを使うことで、国民や有権者との新たなコミュニケーションチャンネルとするようになりました。WhatsAppやTwitter、中国の動画編集アプリ「TikTok」にはまる若者たちの支持を獲得する有効手段と判断したためです。メディアウオッチサイト「TheHoot.org」のセバンティ・ニナン編集長はThe India Forumで「メディアツールが人口動態の変化の指標になった」と述べています。
新聞やメディアへの風当たり
一方、新聞やテレビなどの既存メディアへの風当たりは強まりました。The India Mediaによると、政権に批判的な記事を書く記者や編集者が「圧力」で辞任に追い込まれたり、政権に対する批判的な記事はオンライン上で掲載しないよう「自己検閲」したりしているようです。同ジャーナルは「モディ政権が誕生した2014年5月以降、メディアのWebサイト上で『404 error』が頻繁にみられるようになった」と書いています。
パリに本拠を置く国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」(RSF)の「世界報道自由度ランキング2019」によると、調査対象180カ国・地域のうち140位で、5分類のうち上から4番目の「極めて困難」に分類され、民主大国にしては極めて低いランキングです。ちなみに、138位のミャンマー、139位の南スーダンの後塵を拝しています。2013年に前年から9位落として140位になって以来、この水準で推移しています。
独立系メディアの勃興
こうした中で、フェイクニュースや過度なプロパガンダを検証する独立系のオンラインサイトも相次いで誕生しています。
政治や経済、社会について専門的なコンテンツを提供するメディアも大幅に増加しました。
「TheHoot.org」のセバンティ・ニナン編集長は「偽のニュースの増加は、偽のニュースバスターの出現をもたらした」と指摘しています。
ニナン氏によると、2015年に、宗教や政治に関するソーシャルメディアのデマを検証するSMHoaxSlayerがFacebookページとしてスタートし、2016年にはフェイクニュース退治とファクトチェックイニシアチブを専門とするBOOMが誕生、2017年にAltNewsがサービスを開始しました。
Nieman Labは2019年5月23日の選挙結果が発表された日に、選挙中のフェイクニュースを集約したニュースレターを発行しました。
地域メディアの台頭
中央集権型ではない地域メディアも開花しつつあります。これらの多くには、企業の慈善活動資金が流れ込んでいるようです。
伝統的なメディアを辞めた個々のジャーナリストが、自前のジャーナリズムベンチャーを立ち上げる資金となっており、Wire.in、The Print、East Mojoなどがこれに当てはまっています。
正統派メディアの新たな勃興ではありますが、その影響力はまだまだ小さいようです。
メディアと政治リスク
これまでに見てきましたように、インドでのメディア活動は、世界の潮流に漏れず、既存メディアからソーシャル・ネットワークへの大きくシフトしています。既存メディアは常に政治的な圧力にさらされ、ここを足場とするメディア戦略がリスクを伴うのは明らかです。比較的自由な空間であるSNSにしても、ヒンドゥー至上主義を掲げる政権や与党からは宗教サイトが標的となり、取り締まりも強まっています。
現在、13億人のインドの人口は、2027年頃には中国を抜いて世界最大となり、労働と消費の市場が拡大する人口ボーナスは2040年まで続くと予想されています。インドのメディアも隆盛の一途をたどる可能性があります。
若者に特化したり、より広範なアプローチをしたりしようとすれば、WhatsAppやTwitterは簡易な宣伝ツールとはなりますが、それでも現時点ではやはり政治的なリスクが伴います。慎重な態度が必要でしょう。
クラウドパワーパートナーズ海外編集部は、今後も引き続き海外メディアの動向を追ってまいります。
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