「機械翻訳」ー この言葉を聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか。最近では新型肺炎の蔓延に際し、厚生労働省のホームページ上で「手洗い重要」が「トイレ重要」と訳され、明らかな誤訳と指摘されました。「だから機械翻訳はダメなんだよ」と思われた方も多いのではないでしょうか。
でもちょっと待ってください。「機械翻訳が進歩したとはいえ、その精度はまだまだ人力翻訳には勝てない」という通説に目を向けず(知らず?)、機械翻訳の結果をそのまま公開してしまったところに、この厚生労働省「誤訳問題」の原因があります。
最近では、Google翻訳のように、特定のソフトを購入しなくても簡単に機械翻訳を使えるようになりました。機械翻訳ツールを開発する企業は増え、今後も成長が見込まれると言われています。「機械翻訳はダメだ」との声を聞く一方で、なぜ機械翻訳は続くのでしょうか。それは、機械翻訳はある一定の効果をもたらすからです。
それでは、機械翻訳のメリットやデメリット、またどんなシーンで利用するなら効果的なのかを考えてみましょう。
メリット 機械翻訳はどんなシーンに向いている?
シンプルな定型的文章
例えば、ECサイトのFAQページでよく見かけるこんな表現。
「パスワードをリセットする方法教えてください。」
これをGoogle翻訳にかけてみると、、、
「How do I reset my password?」
と、フレーズ全体を認識し、非常に自然な英語表現と置き換えています。このような定型的な文章は、機械翻訳でも精度の高い翻訳文が期待できます。
マニュアル、法律系文書、特許翻訳
前例のような定型文や決まった言い回しが多いこれらの分野の文章には、比較的機械翻訳が向いていると言われています。実際、特許翻訳を得意とする翻訳会社の中には、独自の技術を開発し、精度をあげている会社があります。また、国際法律事務所の中には、機械翻訳の精度の高さを評価する声もあります。
ポストエディットによる、翻訳者の作業効率アップ
「ポストエディット(英語:post editing)」とは、機械翻訳にかけたあと、人間である翻訳者が修正を加えて翻訳物を完成させるという手法のことです。決まった言い回しが多く、主語や特定の名称を変えればあとは文章構造は一緒、などのような文章を毎回毎回翻訳者が一から翻訳していたのでは、一向に効率化が望めません。
翻訳時間、コスト削減
人間が辞書を片手に一から翻訳するのと、多少誤訳や訳漏れがあっても機械翻訳をかけたあとに出力訳文を修正をするのとでは、どちらが効率よく、時間も短縮できるしょうか。「一次翻訳者+チェック者」の人間2人が作業した場合、一次翻訳作業終了までの待ち時間と人間2人分の人件費がかかることも考えてみてください。もちろん、特定の機械翻訳ツールを導入するには初期費用がかかることが多いですが、長い目でみた場合、「機械+人間1人」の方が時間短縮、コスト削減につながることは想像に難くないでしょう。
しかしながら、機械翻訳にはデメリットもあります。
デメリット 機械翻訳は対応できないのはどんな場合?
誤訳、訳抜けは必ずある
よく「機械は間違えない」などと言ったりしますが、残念ながら翻訳の世界では、人間も間違えれば機械も間違えるのが現状です。
原文に問題がある場合
母国語者であっても母国語でいつも完璧な文章を書けるとは限りません。一読してわかりづらい場合、翻訳者は「行間を読む」という行為で理解するよう努めますが、残念ならがら機械にはできません。
文脈を意識した翻訳や大胆な意訳が必要な場合
例えば、つぎのようなシンプルな会話文、
「How are you today?」
これをGoogle翻訳にかけてみると、、、
「今日は元気ですか?」
間違いではありませんよね(笑)。でも、これは日本語学習教材に出てくるような表現ですし、日本語母語者はこんな言い方はあまりしません。「元気?」「今日はどうよ?」など、その都度シチュエーションに応じて様々な言い方をします。機械翻訳は、このような表現のヴァリエーションには対応できません。
ブログ、リリース記事、マーケティング資料、字幕、文学作品 etc.
となると、魅力的な文章で読者を惹きつけなければならないこれらの分野には、機械翻訳は向かないと言えそうです。ただし、機械翻訳=全く使えない=ゼロ、ということでもなさそうです。例えば、冒頭で例にあげた厚生労働省の誤訳問題報道の文章、
「新型コロナウイルスによる肺炎に関し、厚生労働省がホームページで発信する外国語の情報に誤訳が多く、」
これをGoogle翻訳にかけてみると、、、
「Regarding pneumonia caused by the new coronavirus, the Ministry of Health, Labor and Welfare has many mistranslations in foreign language information on its website,」
全くダメでもなく、これを人間の目で丁寧に修正していけば意外にも使えそうですね。
機械翻訳を有効に活用しましょう
機械翻訳だけに頼り切らない
比較的高い精度が期待できる定型的な文章であっても、必ず人間の目は必要です。
機械翻訳は「下訳」として
人力と違って機械翻訳は万能ではないので、コストと時間短縮につなげるために、機械翻訳を「下訳」として捉えましょうという考え方です。
学習機能を活用する
学習機能を備えた機械翻訳エンジンもありますから、翻訳を蓄積することにより、さらに精度の高い訳文が期待できる可能性はあります。
翻訳対象の分野、内容によって使い分ける
①一次翻訳を機械翻訳 → 人力修正、精査
上記メリットの項目でも挙げたマニュアル、法律系文書、特許の他にも、見積書や申請書のような社内定型文書は、「機械翻訳+人力」という組み合わせで検討してみてはどうでしょうか。
②人力翻訳 → 人力修正、精査
キャッチコピー的な文章が多いマーケティング資料、大胆な意訳が求められることの多いブログ、プレスリリース、字幕などは、人力翻訳を中心に進めましょう。
用途によって機械翻訳をうまく取り入れる
Google翻訳を使って、例えばメールの翻訳をしている方はかなりいらっしゃるのではないでしょうか。外部に公開する文書なのか、それともメールの内容が大体わかればいいのかによって、翻訳文の「質」の捉え方が違ってきます。
私たちはこう取り組んでいます
どの機械翻訳エンジンがいいのか
これまで数社のエンジンを試してきましたが、結論としてはどれも一長一短。「90%以上の精度」と謳われた某機械翻訳エンジンも、弊社で試した結果、とても90%以上の出来ではなかったというのが現実です。翻訳対象の分野、内容によって、数社の機械翻訳エンジンを使い分けることができないか模索中です。
機械翻訳エンジン + 翻訳支援ツール + グロッサリー
機械翻訳エンジンを翻訳支援ツールに実装させるという取り組みは、すでに翻訳会社各社でも行われています。弊社では、クライアントごとにグロッサリーを充実させることにより、どの程度効果、精度の高い翻訳が得られるか、日々テストに取り組んでいます。
ポストエディターの選別
機械翻訳後に人力での修正、精査が入るからといって、完成物が必ずしも「高品質」だとは限りません。それはポストエディターの力量にも左右されるからです。
内容、難易度によっては、誤訳、訳漏れのチェックだけでなく、リライトを含む高い能力を持ったポストエディターが望まれます。弊社では、この「人力」にかかわる部分については、トライアルに合格した翻訳者のみを採用し、翻訳ディレクターによる品質管理の元、翻訳業務を行っています。
機械翻訳の工程を含む案件のご相談は、こちらのページをご覧ください。
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